名古屋高等裁判所金沢支部 昭和44年(ネ)47号 判決 1971年3月12日
主文
一、本件控訴ならびに附帯控訴に基づき
(一) 原判決を取消す。
(二) 控訴人の本件訴を却下する。
二、訴訟費用(控訴および附帯控訴費用を含む)は第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
一、控訴人は、
控訴申立として、
「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。昭和三八年五月一日開催された被控訴組合の創立総会における定款の承認、事業計画の設定、および収支予算決定に関する各議決はいずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
附帯控訴申立に対し、
「本件附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」
との判決を定め、
二、被控訴代理人は、
控訴申立に対し、
「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」
附帯控訴申立として、
「原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。昭和三八年五月一日開催された被控訴組合の創立総会における役員の選挙取消請求はこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」
との判決を求めた。
第二、当事者双方の主張
一、控訴人は、
(一) 昭和三八年五月一日富山市千歳町二〇番地富山県薬事研究所講堂において開催された被控訴組合の創立総会(以下本件創立総会という)議事録には、昭和三八年四月一七日付北日本新聞に開催公告をなす旨が記載されている。しかし被控訴組合は右議事録を閲覧させなかつたから、右新聞に公告した年月日を知ることができず従つて右の公告をした月日が法律に従つていないことも控訴人は知ることができなかつた。従つて控訴人が三月の提訴期間後に右公告手続の瑕疵に関する主張を追加することは許される。
(二) 本件創立総会に出席していなかつた被控訴組合の組合員が創立総会議事録の閲覧を申請したが拒絶された場合は、法律の手続によつて、または他の方法によつて右議事録を閲覧することができる。この場合は三月の期間内に訴を提起し、右の方法によつて議事録を閲覧して違法な個所について三月の提訴期間後に公告手続の瑕疵を追加主張すべきものである。そうだとすれば控訴人の本件追加主張と本件創立総会に出席しなかつた者がなした追加主張とは何等差異がないから、控訴人の追加主張は適法である。
(三) 本件創立総会には、書面または代理人をもつて議決権を行使した者がいなかつたことは原審において主張したとおりであるが、かりに代理委任状および書面議決書が被控訴組合創立事務所へ提出されていたとしても、右委任状には被委任者の名前が書かれていない。従つて委任を承諾した受任者は存在しないから右委任状は民法六四三条に従わない無効のものである。
(四) 右委任状および書面議決書は本件創立総会場へ提出されていない。中小企業団体の組織に関する法律(以下中小企業組織法という)四七条一項、中小企業等協同組合法(以下中小企業組合法という)二七条五項によると、組合員たる資格を有する者で創立総会日までに発起人に対し設立の同意を申出たものの半数以上が出席してその議決権の三分の二以上で決する旨が定められている。従つて右委任状および書面議決書が本件創立総会場へ提出されない以上出席した人数とすることはできないし、また議決に賛成した人数とすることもできない。
(五) 被控訴人主張(三)の1の事実は認める。しかしながら創立総会における役員の選挙が取消さるべきものである以上、右瑕疵ある選挙によつて役員となつた者の任期満了後新しく選任された役員も瑕疵ある選挙によつて選任された役員というべきである。本件の加く裁判が数年かかるのは裁判所に顕著な事実であり、また本件に準用される中小企業組合法三六条二項は、設立当時の役員の任期は一年を超えてはならないと規定しているのであるから、役員は裁判終結以前に新しく選任されることも当然顕著な事実である。従つて右役員の任期満了によつて、選挙取消の訴の利益が消滅する理由はない。控訴人は依然として本件役員の選挙取消について訴の利益を有するものである。
とのべ、
二、被控訴代理人は、
(一) 控訴人の当審における主張事実中、昭和三八年五月一日に本件創立総会が開催された事実は認めるもその余の事実は争う。
(二) 控訴人は右公告手続の瑕疵を主張するが、控訴人は右創立総会に出席し議決があつたことを知つている以上、控訴人が議事録を閲覧謄写しなくても、公告の瑕疵に関する主張は訴の提起と同時になし得たものであり、従つて控訴人のこの点に関する主張は理由がない。
(三)1、本件創立総会において選任された役員は、その後任期満了により、役員としての地位を失い、新たに別紙記載の者が役員に選任された。
2、本件創立総会における役員の選挙が違法であつたとしても当時選任された役員はいずれも任期を満了し現在は在任していない。従つて創立総会における役員選挙を取消しても控訴人は益するところがなく、この請求は権利保護の利益を欠くものである。なお会社において取締役の選任決議の無効または取消が確定した場合につき学説はその無効または取消には遡及効がないものとしており、また下級審判決も同一の見解である(佐賀地 昭和三三年(ワ)第五五号、昭和三四年二月一九日判決、東京地 昭和二九年(ワ)第七一〇九号、第一〇〇九七号、昭和三〇年六月一三日判決)。
とのべた。
第三、当事者双方の立証(省略)
第四、以上のほか当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
理由
一、被控訴人は本件創立総会において選任された役員がいずれも任期満了により役員としての地位を失つたことを理由に、右役員選挙取消の訴の利益は消滅した旨主張するので、右主張に併せ、本件各議決取消についても訴の利益が現存するか否かにつき判断する。
二、右創立総会によつて選任された役員がいずれも任期満了により役員としての地位を失い、新たに後任役員の選任があつたこと、被控訴組合は右創立総会後昭和三八年一二月二八日付で富山県知事の設立認可を受けた上、昭和三九年一月一一日設立の登記手続を了して成立したこと等の事実は当事者間に争いなく、また右創立総会において議決された事業計画の設定および収支予算決定は、いずれも、初年度昭和三八年五月一日より昭和三九年三月三一日まで、次年度昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日までの分であることが成立に争いのない甲第三号証によつて認められるから、右事業計画および収支予算はいずれも予定された年度を経過し、計画または予算としての性格ないしは存在価値を喪失してしまつたことが明らかである。
三、ところで中小企業組織法四七条一項、中小企業組合法二七条六項によると、右中小企業組織法に基づく商工組合の創立総会における定款の承認議決については、商法二四七条ないし二五〇条の決議取消の訴に関する規定が準用されるから同定款の承認議決の成立手続に瑕疵があるときは同議決の日より三月以内に同議決の取消の訴を提起することができることが明らかである。そして控訴人は、本件創立総会において議決があつた後右期間内に、定足数、表決数の不足を理由として右定款の承認議決の取消の訴を提起したことが本件記録上明らかであるから、その限りにおいては同訴は適法であつたものというべきである。しかしながら右定款の承認議決の瑕疵は、設立無効の原因たり得ることを考えれば、右定款の承認議決取消の訴係属中、設立登記がなされ、前記法律による商工組合が成立した本件においては、右議決取消の訴と、中小企業組織法四七条一項、中小企業組合法三二条、商法四二八条による設立無効の訴との関係が当然問題となる。そして設立無効の判決が確定しない以上、定款の承認議決取消の判決が確定しても設立が当然に無効になると解することはできず、また設立登記を抹消する方法もないから、右議決取消の訴をそのまま維持、継続する実益なく無意味であるといわねばならないが、しかし定款の承認議決取消の訴が係属中、設立登記がなされると、同訴は自動的に、定款の承認議決に取消原因あることを理由とする設立無効の訴に性質が変るものと解することも訴訟法上問題が残るところである。従つてこれらの訴の性質、提訴期間を考えれば、このような場合は、定款の承認議決に手続上の瑕疵があることを理由に、右議決後三月以内に同定款の承認議決取消の訴を提起し同訴係属中、設立登記があれば、原告において右登記後設立無効の訴の提訴期間である二年以内に、右議決取消の訴を設立無効の訴に変更し(民訴法二三二条)、訴の維持を図るべきものと解するのが相当である。
ところが本件において控訴人は、設立登記がなされ被控訴組合が成立した後も本件定款の承認議決取消の訴を設立無効の訴に変更することなく、すでに原審係属中に設立無効の訴の提訴期間を徒過してしまつたことが本件記録上明らかである。
すると右定款の承認議決取消の訴は、現在においては実益がないものといわねばならず、訴の利益を失うに至つたものと解するを相当とする。
四、つぎに事業計画の設定および収支予算決定に関する各議決は、予定された年度を経過し、すでに計画または予算としての性格ないしは存在価値を喪失してしまい、また当時選任された役員はすべて任期満了により役員としての地位を失い新たに後任役員の選任があつたものであるから、これら事情の変化によつて右各議決ならびに選挙の取消を求める訴は、特別の事情のない限り実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至つたものと解するのが相当である。そして本件においては右特別の事情が存在することについての主張立証なく、結局本件取消の訴はいずれも訴の利益を欠くに至つたものと認めるほかはない。控訴人が主張する役員の任期と本件の如き選挙取消の訴の審理期間との関係を考慮しても、右訴の利益を肯定することはできない。
五、すると本件控訴人の訴はいずれも不適法としてこれを却下すべきところ、定款の承認、事業計画の設定、および収支予算決定に関する各議決取消の訴を適法であるとし、同請求を棄却した原判決該当部分は相当でないから、控訴人の本件控訴に基づき同部分を取消し同訴を却下することとし、また役員の選挙取消の訴を適法であるとし、同請求を認容した原判決該当部分もまた相当でないから、被控訴人の附帯控訴に基づき同部分を取消し同訴を却下することとし、訴訟費用(控訴および附帯控訴費用も含む)の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
別紙
一、昭和三十八年五月一日の創立総会で選任されて就任した理事及び監事全役員の任期満了により昭和三十九年五月十三日の通常総代会で選任就任した役員の氏名は次の通りである
<省略>
<省略>
二、全役員の任期満了により昭和四十一年五月二十八日の通常総代会で選任就任した役員の氏名は次の通りである
<省略>
三、全役員の任期満了により昭和四十三年五月二十日の通常総代会で選任就任した役員の氏名は次の通りである
<省略>
四、全役員任期満了により昭和四十五年五月二十五日の通常総代会で選任就任した役員の氏名は次の通りである
<省略>
<省略>